シリーズ「劇的ビフォーアフター」の匠たち

  • Vol.1 川嶌守
  • Vol.2 前谷卓嗣
  • Vol.3 渡辺ガク
  • Vol.4 吉原健一
  • Vol.5 荒木毅
  • Vol.6 山崎たいく

2013年8月18日放送「外出すると寝込む家」に出演

大切なことは家づくりというプロセス

「バリアフリー住宅」というと、単に段差をなくして手すりを付ければいいと考えるかもしれない。しかし、人によって障害は違う。片手に障害があるケースでも、動かせるのが右手か左手かで使いやすい設備は違うし、その人の生活スタイルによっても求められる機能は変わってくるだろう。そんな本物のバリアフリーに、前谷氏は挑んだ。それは「住む人のための空間づくり」という建築の原点のような仕事だった。

前谷卓嗣

プロフィール
前谷卓嗣(まえたに たくじ) 住まいを買うとか選ぶということではなく、自分たちの生活や信条を織り込みながらつくりあげていく面白さの手助けが出来たらと考えています。暮らし方を見つめ直し、それらを限られたスペースの中でいかに展開出来るか、さらに新しい住まい方を発見できるかを一緒に考えて行ければと思います。

放送を見ていない人のために、今回のリフォームの概要を教えてください。

50代の旦那さんと40代の奥さんのご夫婦が暮らしてきた築30年の家です。奥さんは脳梗塞で左半身が動かなくなって以来、車椅子で生活しており、旦那さんは長年、献身的に介護されてきました。障害を持つ前に建てられたものなので、もとは普通の家ですが、奥さんが暮らしやすく介護しやすいよう、独自にさまざまな改造や工夫をされています。ただ、旦那さんも50歳を過ぎ、奥さんの状態も良くならない中、「いまのかたちで今後も暮らしていくのは難しい」ということで、番組にリフォームを持ちかけたわけです。

外観

断熱材入りのガルバリウム鋼板を採用した外観。寝室の横に車がつけられるよう、屋根付きのカーポートを設置している

寝室

奥様の個室からはトイレなどに行きやすい生活者の視点に立った導線に

リフォームで解決したい課題として、どんなものがあったのでしょう?

最大の課題は奥さんの通院です。月1回、自宅から車に乗り込み、旦那さんが運転して病院に連れて行くのですが、自宅の敷地は道路から1.5mも上にあります。奥さんを抱えて階段を下り、車に乗せ、病院でリハビリして自宅に帰ってきたら、また抱えて階段を上る。奥さんの疲れも大きく、翌日は寝込んでしまうとのことでした。

プランニングに当たって、どのように考えましたか?

 まず今の住まいは「限界を感じている」とは言うものの、旦那さんが長年、手すりを付けるなど、少しずつ手を加えて暮らしやすくしてきた家です。だから、下手なリフォームをした場合、以前より暮らしにくくなる危険すらある。気をつけなければならないと思いました。

苦労したのはどんな点でしたか?

介護施設の設計などを手がけたこともあったので、バリアフリーの知識はありました。しかし、今回の案件は、この家で暮らすご夫婦のためだけの、オーダーメイド的なバリアフリー建築です。これは知識だけではどうにもなりません。
そこで奥さんと一緒にショールームに行って、使いやすい家具の寸法を調べたり、バスやトイレの使い心地をヒアリングしたり、右手だけで身動きが取れるかを検証したりと、徹底的に二人のためのバリアフリー空間を研究しました。

その中でも最大の問題というと?

通院する際、敷地から下の道路へ降りるのをどうするかですね。まず、植栽を取り払い土を削って高低差を小さくしました。さらに家の中までスロープを入り込ませ、車が家まで迎えに来られるかたちにしました。
配慮したのは建築だけではありません。ご主人が福祉用のプリウスを買うというので、出入りしやすいよう、プリウスの寸法に合わせて最適なスペースを取ってあります。

K邸 既存の納屋を解体した後に建てた住宅。納屋に使用していた梁を居間の棟梁に、基礎の青石を玄関やポーチの敷石として再利用。(K邸)

つくづく大変なリフォームでしたね。

たしかに技術的な難しさだけでなく、精神的にも非常にプレッシャーを感じる仕事でした。それでも、助かったのは奥さんが明るい人だったことです。気に入らないもの、使いにくいものは、はっきりと「アカン」と言ってくれる。これは、やりやすかった。

普段の仕事でも、施主との関係は重要ですか。

一番大事なのは施主の言葉です。
なんとなくではなく、はっきりと「こういう暮らしがしたい」という目的をもっている方が、こちらもそれを汲んで提案しやすいということは言えます。言葉にならなくても、雑誌の切り抜きなんかでもいいんです。そこから好きな方向性が解ります。

これからは、どんな家をつくっていきたいですか?

若いころは「家とは」「建築とは」という具合に、いろいろと頭で考えていましたが、いま思うのは「自然体が一番」ということですね。お客さんとの縁を大切に、「この人の家を作りたい」「この人に喜んでもらいたい」という気持ちを強く持っていれば、いい家ができます。
それは今回の番組でのリフォームでも同じですね。
家という結果は、家づくりというプロセスで決まるのです。

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