番組が「気の抜けない家」と名付けた築40年の木造家屋。延床面積は45坪と決して狭くはないが、部屋を移動するにも食事をするにも段差や荷物が立ちふさがり、まさに気苦労の絶えない空間となっていた。この家は70代の両親と娘夫婦、その子供が暮らすだけでなく、目の不自由な娘が鍼灸院を営む仕事場でもある。リフォームを手がけた吉原氏は、どのように考え、取り組んだのか。
この家の第一印象はいかがでしたか。
とにかくモノがあふれているな、と。収納が少ないせいもあって、モノが置きっぱなしになっていたり、室外機やプロパンガスが邪魔になっていたり。物置になっていて使えない部屋もありました。狭い家ではないはずなのにモノのせいで結果的に息苦しくなっていた。だからまず収納を増やしたりして「片付く家」にしないと、と考えましたね。
床材をフローリング、コルク等変えることで目が不自由でも歩行し易くしています。
バリアフリー対応の広い玄関
家に加えて店舗でもあるわけですよね?
1階が鍼灸院で娘さんの仕事場です。ここが住居スペースに対して広すぎたので、削ってそのぶん家を広くすることにしました。ほかにも間取りが細かすぎて使いにくかったりしたので、空間を仕切り直し、全体的にバランスを整えています。
リフォーム全体としての方向性を教えてください。
最終的に決めたテーマは「回遊性」ですね。
動線をスムーズに、行き止まりがないようにし、誰にとっても安全で住みやすいような空間を心がけました。たとえば、目の不自由な娘さんも一緒に料理が楽しめるように、キッチンを広めに作って、2、3人が立てるようにしたりしています。
具体的にはどんな手法を使ったのでしょう?
段差をなくして引き戸にしたり、階段を緩やかにしたりといった基本的なことのほかに、「目が見えなくても楽しめる住宅」にしようと知恵を絞っています。
たとえば、部屋によって壁や床の素材を変えました。こうすることで手触りや足の感触だけで状況がつかめるわけです。また、素材は珪藻土や和紙、木材など、自然のものを使って、さわっても楽しめるようにしています。合板や樹脂製品だと冷たいし、さわっても味気ないですからね。
普段の仕事でも、よく自然素材をお使いですね。
家を作るときは「光と風を取り入れる」ということを常に考えています。ライトやエアコンを使わなくても、自然の光と風で快適に暮らせるような家にしたい。それが理にかなっていると思うからです。
そう考えると、やはり木や和紙といった自然素材が優れているわけですね。たとえば、気候に応じて、湿気を吸い取ったり、逆に吐いたりと、建物自体が室内環境を整えてくれる。何も特別な事じゃなくて、昔ながらの住宅はそうなっていたんです。
住居部分を広げ、明るく広々としたダイニング、キッチンとなりました。
プロフィールに「京都の町家で生まれ育った」とあります。
現代では珍しい家だと思われていますが、言ってしまえば町家も今の都会の家と同じで「都市型住宅」なんですよ。町家では、庭を作るスペースがないからと中庭を作ったり、他人の視線が気になるからと格子を付けたりしている。
人口密度の高い都市にあって、どうすれば光や風といった自然の恵みを活かし、プライバシーを守られた心地よい暮らしができるのか。町家はひとつの答です。町家から学んだことを、今の都市での住宅づくりに活かしていきたいと思っています。
空調や最新素材に頼らなくても、やり方はあるんですね。
アイデア次第ですよ。今回のリフォームでもそうでしたが、バリアフリー住宅の基準みたいなものは結局、役に立ちません。何に困っているか、何をやりたいかといったことは、住む人によってぜんぜん違うからです。「こうすればいい」という答は、住む人との対話の中で見つけていくしかありません。
だから、これから家を建てたい人も「できないかも」「無理だろう」という考えはひとまず置いて、理想はすべて建築家にぶつけてほしいですね。一見、不可能なようでも、アイデアで可能にできるのです。