時代に新風を吹き込む建築家たち

2014.8.8

非日常を生み出す「畑違い」の力

猿田仁視(CUBO design architect)

「建築家になったきっかけですか? ちょっと長くなりますよ……」。単なる前振りだと思っていたら、本当に長かった。1971年生まれ、横浜国立大学を卒業し、現在は湘南エリアで建築事務所を営む。と、これだけ聞くと順風満帆なキャリアに見えるかもしれない。ところがどっこい、設計とは畑違いである現場の仕事からスタートし、独学で建築の道を切り開いてきた苦労人なのだ。

インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部

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――長野県のご出身なんですね。

松本市で育ちました。子どものころからモノをつくるのは好きでしたよ。中学のころ、技術家庭の時間に折りたたみのイスをつくったとき、図面を描いて、カンナ掛けをして、組み上げて・・・と出来上がっていくのがとても楽しかったんです。そのころから設計をする人になりたいと思うようになりました。

――で、建築を学ぶため横浜の大学に入った、と。

いえ、実は建築の道は、高校のときに一度、諦めちゃったんです。理系の工学部に行きたいと思っていたのですが、どうしても数学が苦手で・・・。そんなわけで、文系の経営学部を受験して入学したわけです。

――――では、卒業後は普通に就職を?

いや、大学は出たものの、やりたい仕事がなくて、いろいろ考えた結果「やっぱり建築がやりたい」と。そこから、10年に及んだ修行の始まりです。
まず、建築士免許を持っている先輩に相談したら、「現場を知らないとダメだ」と言われたので、工務店に入りました。そこで大工の見習いから始まって、次はハウスメーカーの現場で2×4のフレーム組みの大工をしました。
大学出のヘナチョコでしたが、現場の仕事はなんでもやりました。
結局、自分で設計したいという欲が出てきたので、設計施工の事務所で働きながら建築免許を取得し、2004年に独立した、といういきさつです。

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――施工の体験は、設計にも活きていますか?

現場をある程度知っていますから、現場での作業やコストのことまで考えて設計できるのは強みだと思っています。
ただ、現場の大変さも身にしみているので、当初は「こういうデザインは施工が苦労するな」「これはコストがかかるな」とか考えてしまって、設計に二の足を踏む場面もありました。しかし、今はそんなことはありません。大変さを知りつつ、線を引くことが大切だと思っています。

――これまで70件近く手がけてきましたが、設計にあたってどんなことを考えてきましたか。

とにかく身体感覚を大事にしたい、ということですね。
視覚だけでなく、聴覚、嗅覚もつかって、日常生活の中に非日常が味わえるような家。空間というより、艶やかさのある〝空気感〟というものを目指していきたいと思っています。
僕は建築学科を出ていないこともあって、言葉でキッチリ説明できるような理論的なデザインをつくるのは苦手です。畑違いの仕事からスタートして、キャリアも実績もほとんどない状態で事務所を作りました。
コンプレックスはあります。だからそのぶん、クライアントと同じ目線で、使う人が、「何かいい」と言ってくれるような、身体に訴えるものをつくることに賭けているんです。
独学でやってきた私だからこそ、できる建築空間があると思っています。

猿田仁視(CUBO design architect)

photo 1971年4月生まれ。長野県松本市出身。一級建築士。
横浜国立大学・経営学部卒業。 卒業後、工務店にて大工を3年間経験し、大手ハウスメーカーの住宅現場に従事。 デザイン事務所にて住宅設計・店舗設計と施工管理を担当する。 2004年3月、キューボデザイン建築計画設計事務所開設。全国にてプロジェクトを精力的に展開している。

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