時代に新風を吹き込む建築家たち

2013.01.18

「豊かさ」の香気が立ち昇る

渡辺純(JWA建築・都市設計)

「若いころ、上の世代が学生運動をしていたこともあって、真剣に考えましたね。生き方や真理を。建築ならそれに近づけるような気がしたんです」。建築の道に進んだきっかけをこう振り返る。人はどう生きるべきか。豊かさとは何か。そんな根源的なテーマを頭に置きつつ、長いキャリアの中で数多く作ってきた住宅に「ゲストハウス」がある。

インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部

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――長年手がけてこられた「ゲストハウス」とは、どんな住宅ですか。

簡単に言えば、個人や企業が建てるお客さんをもてなすための邸宅ですね。たとえば、東京のマンションに住んでいる人が、自然が豊かな軽井沢にゲストハウスをつくり、週末は軽井沢に友達を招いてパーティーを開く。こういった使い方をします。

ただ、お客さんの中には、別荘としてつくったゲストハウスの方が気に入って、日ごろ生活する本邸になってしまった人もいます。もちろん、それも「あり」です。

――なぜそういった住宅を設計するようになったのでしょう。

ひとつにアメリカ生活が長かったことがあります。向こうの大学院に留学した期間と、アメリカで働いた経験を合わせると約10年。ボストンやニューヨーク、オースチンといった都市のアメリカ人社会で生活しました。

単に物質的に豊かであるだけでなく、リフレッシュのためのレジャーが楽しめたり、風光明媚な場所に近かったり、と環境面でも豊かな日々を送りました。そこで過ごしたことが、「本当の豊かさ」「自然の中での人間のあり方」というものをじっくり考える契機になりましたね。

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――住宅がつくる「豊かな生活」とは、どういったものでしょう。

言葉にするのは難しいですが……、住宅には形があるので、つい「もの」として捉えがちです。しかし、そうではなく、家とは、人が活動するという「こと」が起きる空間だと捉えることが大切だと思っています。

たとえば、キッチンを設計するとき、施主の要望をすべて叶えた上で、作業効率のいいものにするだけでは不十分です。単に使いやすいだけでなく、「料理をつくる」という「こと」が、普通よりすばらしい情景として起こりうるようできないか、そんな空間を作ろう、とこちらは心を砕くわけです。

料理に限らず、生活のすべてにおいて、暮らしている人が活動する「こと」の品位を高める。その結果、生活の香気が少しずつ立ち昇る。こういったことが、私の考える「豊かさ」ですね。

渡辺純(JWA建築・都市設計)

photo 1978年  東京大学工学部建築学科卒業
1978~81年  丹下健三・建築・都市設計研究所
1981~83年  ハーバード大学建築大学院修了
1983~85年  I.M.ペイアンドパートナーズ
1985~90年  槇総合計画事務所
1990年  (株)JWA建築・都市設計代表
1990~96年  テキサス大学助教授
1996年  テキサス大学終身教授資格
1996~2009年  中部大学教授

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