建築家インタビュー 建築家の間取りから

平屋 ~のびやかに暮らす~

限られたスペースを広く見せるための工夫や、光や風を存分に取り入れる仕組み、住まい手の生活スタイルにしっくりとなじむ動線計画──建築家が手がける「間取り」には、住宅メーカーや工務店にはない独自のアイデアが詰まっています。本シリーズでは、そんな建築家の間取りと設計手法を徹底解剖。心地よく魅力的な間取りはどのように生まれるのか?に迫ります。第3回は、ゆったりとした敷地を生かしながら「和」の要素を取り入れた平屋の事例、「ちょっと和風な家、I邸」(スタジオパートスリー)です。

Architect

スタジオパートスリー

中道 哲也さん

中道 哲也

1963年 和歌山県御坊市生
1989年 設計事務所勤務後、中道建築設計事務所設立
1992年 有限会社サンクリエーション、共同で設立
2004年 デザインオフィス・スタジオパートスリー設立
2011年 和歌山事務所設立
2011年 株式会社スタジオパートスリーに法人化

一級建築士
宅地建物取引主任者
社団法人和歌山県建築士会会員
日高建築設計事務所協会会員
御坊ライオンズクラブ会員
日建学院設計製図講師
和歌山県建築士事務所協会

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―「I邸」以外にも平屋の設計を多数手がけていらっしゃいますが、平屋のプランを考える上ではどのような点がポイントになるのでしょうか。

「平屋の場合はこうすべし」というような、王道のプランニング手法というものはないんですよ。重要なのは、敷地の特徴や周辺環境、そして、それらと建物との関係性です。これは平屋に限ったことではなく、どんな住宅のプランニングでも同じですよね。
とはいえ、平屋を建てるような敷地は広い場合が多いので、そうした大きな敷地をどう生かすか、という課題は必然的に多くなります。たとえば「I邸」の敷地は、東西に長い形をしています。日照や南側の借景を考えると、居室はできるだけ南面させたい。そこで、収納や水廻りを前面道路のある北側に集め、LDKや寝室、子ども室などは南側に集中させています。こうすれば、1つの平面に多数の部屋がある平屋でも、すべてが南側に開けたプランになるわけです。
どんな敷地にも同じようなプランを当てはめてしまっては、建売り住宅と変わりません。建物の高さや形ありきで考えるのではなく、まず敷地と周辺環境を考慮し、それを生かせるプランを考える。これが建築家の仕事だと思っています。

―同じ平屋でも、敷地の条件によってプランニング手法がまったく異なるのですね。

そうですね。ただ、「家族が1つの平面で生活する」という特徴はどの平屋にも共通しています。ですから当然、「家族間のプライバシーをどう確保するか」という課題には常に直面します。
「I邸」の場合は、敷地の東側と西側とでプライベートな空間とパブリックな空間を分けるイメージでプランニングしました。南西側にリビングや和室を集中させて、南東側に寝室などの個室をもってくる。そして、それらを廊下やホールで区切る。完全に区分するのではなく通路で区切ってあげれば、適度なつながりを保てます。

―2階、3階建てとは違い、階段がないことは平屋の特徴ですが、プランに何か影響がありますか?

階段がない分、平屋では移動のための通路スペースの割合が増える事になります。部屋が狭くならないよう、そうした非居室の部分をできるだけコンパクトにまとめる工夫は必要でしょう。
あとは、平屋は屋根の面積が大きいので、いわゆる屋根裏のスペースも大きくなります。「I邸」の子ども室などは屋根勾配に合わせて天井を高くして広さを感じられるようにしていますが、その空いたスペースにロフトを設けて活用しています。収納として使ってもいいですし、勉強部屋としても使えるでしょう。

―「I邸」の内装は、空間がつながっているのに変化に富んでいて、退屈さを感じさせませんね。何か特別な工夫をされているのでしょうか。

せっかく一体につなげて開放感をもたせても、全体を同じ素材で仕上げてしまっては、のっぺりとした面白みのない印象になってしまいますよね。ですから「I邸」では、LDKと和室の仕上げ材に少し工夫を凝らしています。
例えばダイニングでは、床はタイル、天井はスギ板に塗装を施したものを使っていますが、隣接するリビングの床はフローリング、壁や天井はクロス・珪藻土に切り替えて雰囲気を変えています。こうすることで、視覚的な変化が生まれるのです。ダイニングとリビングの天井に段差を設けているのも同じ理由です。
ただし、やみくもに変化させるだけではちぐはぐな印象になってしまい、今度は平屋ならではの「つながり感」が失われてしまいます。そこで、ダイニングのタイルや天井のスギ板を和室にも使ったり、すべての部屋の建具を同じ材料で統一したりしています。一見するとそれぞれがバラバラのようで、実は「素材」を通じて住まい全体に統一感をもたせている。こうした絶妙なバランスが楽しめるのも、建築家へ設計を依頼するメリットの1つではないでしょうか。

―リビングの北側には立派な和室がありますね。大きめの段差を設けていますが、これも「視覚的変化」をもたせるためでしょうか?

大きめの段差によって和室に「特別感」を与え、少し贅沢な空間として楽しめるように…という意図はあります。それから、腰をかけながらリビングにいる家族との会話を楽しむための、ちょっとしたファニチャーとしての役割も持たせています。
ただ、この和室の役割はそれだけではありません。建具を開けておけば、リビングとの「いい関係」を保ってくれますが、建具をすべて閉じることで完全な「個室」となり、客間や応接室として使えるようになる。玄関ホールからも直接出入りできるよう動線を取っているので、使い勝手も抜群です。部屋を区切りにくい平屋にとって、こうした変幻自在な和室は重宝するはずです。
地域にもよりますが、和室が欲しいという要望は依然として根強くあります。そんなとき、考えなしに配置した和室というのは、結局、使われない空間になりがちです。使い勝手を考えたプランを心がければ、そんな「使えない和室」が生まれることもなくなるのではないでしょうか。

―外観に表れる「平屋ならではの魅力」は何かありますでしょうか。

外観で言えば、屋根面が大きいのが平屋の最大の特徴でしょう。「I邸」の屋根材にはスレートを使用していますが、緩やかな勾配の大きな屋根面にスレートが整然と並んでいると、やはり高級感は出てくるのではないでしょうか。それから、平屋は水平方向に広いため、軒先のラインの連続が美しく見えるのもメリットです。
もう1点、軒を深く出せる点もポイントですね。垂直方向に長い2階や3階建ての住宅で軒を出し過ぎるとバランスが崩れてしまい、おかしなプロポーションになってしまいます。その点、平屋ならすっきりと美しく見せられる。最近では軒の出がほとんどない住宅が多くなっていますが、軒には本来、外壁に雨がかかるのを防いで建物を守るという役割があります。美しい外観をつくりつつ、深い軒で家を守れる。これも、平屋の魅力と言えるかもしれませんね。

―平屋で暮らすことのメリットについて、どのようにお考えですか。

まず、平屋には大きめの敷地が必要ですから、必然的に「広々としてゆったりした住まい」が実現しやすくなりますね。また、構造的なメリットもあります。建物の背が低ければ当然、強度は増します。高い建物に比べて地震には圧倒的に強くなりますから、その分、安心して暮らせるという側面もあるでしょう。
そしてもうひとつ、平屋の魅力として忘れてはならないのが、単純に「移動がしやすい」という点です。実際に生活してみないと実感できないかもしれませんが、実はこれがとても重要なんです。平屋では階段を上る必要がありませんから、モノも運びやすくなりますよね。移動が楽なことは、お年寄りだけでなく、誰にとっても暮らしやすさに直結します。ちなみに「I邸」はバリアフリーにも配慮した住宅ですから、その意味での暮らしやすさはさらにアップしているはずです。
敷地や予算の問題がありますから、どんな人にもお勧め、とはいきませんが、家づくりを検討している方には、ぜひ、平屋という選択肢も考えてみてはいかがでしょうか。

子供室 広々としたロフト

子供室に設けられたロフト。屋根面が広いため、空いた屋根裏スペースを有効活用。たっぷりの日差しが得られるようにハイサイドライトも設けている。

和室の天井

和室の天井は、ダイニングと同じスギ板で仕上げた。別々の空間ながら一部の素材をそろえることで、住まい全体に統一感が生まれる。

和室の床の間はタイルで

和室の床の間はタイルで。地窓から見えるアプローチも同じタイルで仕上げ、外とのつながりが感じられるように。

夜のダイニング 夜のリビング・ダイニング

日が落ちて室内に明かりをともす。さまざまな光の効果で昼とまったく違う表情を見せる室内。

編集後記

平屋の雄大さに思いを馳せて

毎年、1~2棟の平屋の設計を手がけているという中道さん。取材では「平屋ならではの設計手法はない」と話してくださいましたが、そこはやはり経験豊富な建築家。どんな課題にも必ず最適な答えを導き出せるノウハウをお持ちでした。
最後に、最近都市部ではめったに見ることができなくなった平屋について、こう話してくださいました。
「平屋が少ない点については、敷地の都合上、仕方のないことではあります。しかし、平屋には平屋の魅力があります。何かの機会にこの『I邸』に目を留めていただき、平屋を通じて「ゆとりある暮らし」を見つめ直すきっかけにしていただけたら、建築家としては喜ばしい限りです」。

編集後記

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