建築家インタビュー 建築家の間取りから

滑り台のある家 ~日常にワクワク感を~

限られたスペースを広く見せるための工夫や、光や風を存分に取り入れる仕組み、住まい手の生活スタイルにしっくりとなじむ動線計画──建築家が手がける「間取り」には、住宅メーカーや工務店にはない独自のアイデアが詰まっています。本シリーズでは、そんな建築家の間取りと設計手法を徹底解剖。心地よく魅力的な間取りはどのように生まれるのか?に迫ります。第11回は、家の真ん中に滑り台をつくった事例「滑り台のあるワクワクする家」(ヴィーヴル建築設計事務所)です。

Architect

ヴィーヴル建築設計事務所

松井都恵さん

松井都恵

1970年?名古屋市生まれ
1995年~2008年?某分譲住宅メーカー勤務
2008年~2011年?某工務店の注文住宅部門勤務
2011年?工務店「株式会社ヴィーヴル」「ヴィーヴル建築設計事務所」を夫婦で設立

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―最初に、この家の作品名にもなっている滑り台がどうやって誕生したのか、その経緯を教えてください。

初回の打ち合わせの段階で「家の中にワクワクするような仕掛けが欲しい!」という要望を建て主さんから頂いていました。小さなお子さんがいらしたこともあり、ずいぶん前から、リビングにブランコをつくるとか、壁に石を埋め込んでウォールクライミングができるようにする、とか、かなり具体的に考えていらっしゃったようです。その要望の1つに、今回の滑り台がありました。

―数ある候補のなかから、滑り台が選ばれた理由は何だったのでしょう?

例えばウォールクライミングの壁をつくるとなると、リビングに吹き抜けが必要になり、2階の部屋数が減ってしまいます。そのほか、安全性の問題などを考えると、最も現実的なのが滑り台だったというわけです。
公園などにあるような金属製の滑り台も検討したのですが、「無垢材をふんだんに使い、木の温もりを感じながら暮らしたい」という建て主さんの願いもあり、木材だけで滑り台をつくることにしました。間取り的には、階段に並んだ滑り台を中心に、全体を回遊するようなプランになっています。結果的には子どもたちも大満足のようで、お友達を呼んだりして、今でも毎日滑っているそうですよ。

―手作りの滑り台がある家というのはかなり珍しいですよね。設計にはさぞ苦労されたのでは?

私にとっても初めてのことでしたから、いろいろと悩みました。滑り台の傾斜が急になりすぎないよう配慮したり、降りきった部分の曲線をどうすれば木材で実現できるかを考えたり。とにかく時間をかけて検討を重ねました。
結果として理想通りの滑り台が完成したのですが、これは夫が大工としてこの家の施工に携わっていましたので、難しい部分は夫と相談しながら進めていけた点も大きかったと思っています。

―松井さんが設計をして、大工である旦那さんが施工をするわけですね。建築家のご夫婦は多いですが、建築家と大工というタッグは珍しいです。

設計から施工までを一貫して請け負える、というのは私たちの強みのひとつです。でも、これは建て主さんにとってもメリットが大きいのですよ。
建築家も人間ですから、現場の大工さんに細かい注文を付けるのは気を遣うものです。しかし相手が身内なら遠慮はいりません(笑)。言いたいことをきちんと伝えれば建築家のこだわりも反映させやすいし、図面に描いたデザインが無理なく施工できるかをその場で確認できるので、不具合も起きにくくなります。
もちろん、夫と喧嘩になったこともありましたよ。「図面を描くのは簡単だろうけど、つくる方は大変なんだぞ!」って(笑)。でも、そうやって建築家と職人が顔を付き合わせてコミュニケーションを取ることは、住宅の質を高めることに直結する大切な要素だと思っています。

―滑り台の他に、この家の間取りで工夫された点はどのあたりでしょうか。

収納の役割と、その大きさについては工夫をしました。たとえばご主人の部屋は7畳くらいの小さなスペースなので、テレビなどのAV機器がすべてしまえる収納をつくりました。服の数はそう多くはないので、コンパクトにまとめています。逆に服をたくさんお持ちの奥さんの収納は、大きなウォークインクロゼットです。またお子さんの部屋は、両端にひとつずつの収納をつくりました。いまはひとつの部屋ですが、2人のお子さんの成長に合わせて中央に間仕切りを建てれば2部屋に分けられるような工夫です。
それから、家の真ん中にある階段と滑り台の内部も、それぞれ収納を設けてデッドスペースをなくしています。
収納にはそれぞれにあった形というものがありますから、1つ1つをこうして造作すると使い勝手は格段に上がります。この家の家具はすべて大工による造作です。大工造作の家具は現場でつくりますから、天井や壁のスペースを無駄なく使える点がメリットです。もちろん、私もいろいろと口を出しました(笑)。設計と施工を一貫で依頼することのメリットがめいっぱい形になった住宅といえるかもしれませんね。

対面式キッチン

LDKに面した対面式のキッチン。浴室・洗面室にもほど近く、家事動線はバッチリ

階段上は腰壁をつくらず、木のルーバーに。光の抜け道が生まれ、自然素材の優しさも感じられる

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広さのある小屋裏空間は収納として活用。子どもたちも「秘密基地みたい!」と大はしゃぎだそう

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玄関ポーチからつながる大きなデッキは、LDKからも直接アクセスが可能。空間がより広く感じられる仕掛けだ

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玄関ポーチを見上げる。白の金属外壁に木製のルーバーがアクセント

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編集後記

取材後にふと、「滑り台はお子さんが成長されたら不要になるのでは?」というちょっと意地悪な疑問が頭をよぎりました。思い切って松井さんにこの質問をぶつけてみると、意外にもこんな答えが返ってきました。「私も後で知ったのですが、この家では2階に干した洗濯物を取り込んだあと、奥さんが滑り台を使って1階に洗濯物を滑らせているみたいです(笑)。面白い発想ですよね。私たちはこの家のお子さんや、将来生まれるであろうお子さんのために滑り台をつくったつもりでしたが、案外大人も楽しんでいるのかもしれませんよ」。なるほど。確かに、自分の家に滑り台があったなら、大人の私たちも毎日ワクワクしてしまうことでしょう。

編集後記

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