建物は見るだけではわからない。外観や間取りは映像や写真で見ればわかるものの、光がどう差して風がどう通りに抜けるか、その結果、どんな空間になるのかといったことは、実際に中に入ってみない限りわからないのだ。今回、放送された「屋根裏が一番落ち着く家」のリフォームも、音や光といった「目に見えないもの」が最大のテーマだった。荒木氏はどのような問題を解決したのか。テレビだけでは伝わらない空間づくりの工夫を語ってもらった。
- 荒木毅(あらき たけし)1957年 北海道生まれ。レーモンド設計事務所、アーキテクトファイブを経て1990年アレフアーキテクツを設立。2000年には、荒木毅建築事務所に改名。
はじめてこの家を見たとき、どの様な印象を受けましたか。
工事が大変だな、と。これが最初の印象ですね。
木造2階建ての三軒長屋の真ん中で、両隣の建物と壁を共有するかたちになっています。まずは隣に迷惑をかけないようにリフォームするにはどうすればいいか、と考えました。
続いて、プランを立てる際にでた課題は「光の入れ方」ですね。
この家で日当たりが良い場所は、2階の南側だけなのですが、床が傾いていたり、お店をやっている隣の音が気になることを理由に、2階は使われていませんでした。
だから、この唯一の太陽の光を活かして、日当たりが悪くて暗い1階まで光が注ぐようにしたいな、と。現状の使いにくい間取りを直しつつ、家の中に光を入れる。最大の狙いはこれでしたね。
左側は広々としたガレージ、右側の2階へと続く階段からは光が差し込んでいる
リビングは南向きに面しており、大きな窓から光を取り込む
実際に工事はどのように進めたんでしょうか?
壁を壊したりするとき、機械を入れると騒音が出るので、工務店には手作業でやってもらいました。工務店には申し訳なかったのですが、快く引き受けてもらったことに感謝しています。
「音」の問題は、最終的にどう解決したのでしょう?
難しかったですよ。単に壁ごしに音が聞こえてくるだけじゃなくて、長屋なので柱や梁も隣とつながっているので、振動も伝ります。共鳴したり隙間で響いたりと、音はかなり複雑な伝わり方をするわけです。
そこで「あらゆる周波数をつぶす」という策を採りました。音の伝わる隙間を埋め、壁は二重にした上で、ゴム・合板・断熱材などを組み合わせ、どんな音であっても遮断できるようにしました。ここは工夫のしどころでしたね。
「光」の問題はどう解決しましたか?
実は「音」の問題以上に、「光」を入れるのが非常に難しい家でした。
最終的に、従来のように窓で横から光を入れるのではなく、「上」から入れることにしました。工場のようなノコギリ屋根にして、光の入り口を大きく取ったわけです。結果的にこれが大正解で、一番満足しているところです。
CH13(コートハウス#13)
普段の仕事でもこういった難しい案件はあるのでしょうか?
狭小住宅と言えば、8坪の家を設計したこともありますが、今回の長屋はそのときより困難でしたね。おかげで「乗り切った」という自信にもなりました。
今回の案件と普段の仕事の一番の違いは、コミュニケーションですね。ビフォーアフターでは最初しかお話しができませんが、普段の仕事ではコミュニケーションをとても重視しています。
工事が始まってからも、できるだけお客さんにも現場での打ち合わせに参加してもらっています。建築士・工務店・施主の3者で話し合って、その場でお客さんの意見やちょっとした要望などを反映させていくわけです。3者の「掛け合い」で、設計図に書ききれない要素も盛り込まれ、いい家になります。
なるほど、たのしそうですね!
実際に見たり触れたりしてみると、いいアイデアが出ることって多いんですよ。みんなざっくばらんに言いたいことを言うと〝相乗効果〟が起きるわけです。