建築家・ナイトウタカシさんのブログ「手すりとスロープだけでは家は快適ではない」

手すりとスロープだけでは家は快適ではない

2025/09/24 更新

バリアフリー住宅と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは「手すり」と「スロープ」ではないでしょうか。
確かに、これらは車椅子生活や高齢者にとって欠かせない要素です。段差の解消や安定した移動を支えるうえで、大きな効果があります。

しかし、手すりやスロープを取り付けただけで「快適な家」になるかといえば、残念ながら答えはNOです。
むしろ、それだけに頼ってしまうと、日常生活の中で思わぬ不便やストレスが残り続けることもあります。

1. 家全体の動線が変わらなければ、不便は残る
玄関にスロープを設置すれば、外出や帰宅はしやすくなります。廊下や階段に手すりを取り付ければ、移動時の安心感は増すでしょう。
けれども、その先に待っているのが「狭い廊下」「曲がりにくい角」「扉の開け閉めのしづらさ」であれば、結局は快適な暮らしにはつながりません。

家は一つの空間の集まりであり、生活は「点」ではなく「線」で行われます。つまり、部分的な解決策だけでは、生活全体の流れがスムーズにならないのです。

2. 家族全員の暮らしにとっての快適さが重要
手すりやスロープは、車椅子利用者本人や高齢者の移動を助けるものです。
しかし家族の誰もが日常的に同じ家を使う以上、本人だけが使いやすい状態では不十分です。

例えば、スロープの角度が急すぎると、介助する家族にとっては大きな負担になります。
また、手すりの設置位置が本人には適切でも、他の家族にとって邪魔になることもあります。
快適さとは「誰か一人のため」ではなく、「家族全員のため」でなければ成立しないのです。

3. 将来を見据えた設計が求められる
子どもが成長する、家族の介助の有無が変わる、介助者自身が年齢を重ねる――。暮らしは時間とともに変化します。
手すりやスロープは「今」を助ける道具ですが、5年後、10年後にそのまま使いやすいとは限りません。

だからこそ重要なのは、将来を見据えて「生活動線そのものを最適化」することです。玄関からリビング、リビングから寝室、寝室からトイレや浴室へ。
家全体をシミュレーションし、将来の変化に柔軟に対応できる設計を行うことが、本当の意味での快適な暮らしにつながります。

4. 本当に必要なのは「トータル設計」
手すりやスロープは、あくまで部分的な解決策に過ぎません。
大切なのは、**「家全体をどのように使うか」**という視点で動線を設計すること。

玄関から寝室まで車椅子でストレスなく移動できるか

介助者とすれ違える幅があるか

家族が自然にくつろげる空間を保てるか

これらをトータルに考えてこそ、「安心」と「快適」を両立した家が生まれます。

まとめ
手すりやスロープは大切です。けれど、それだけでは家は快適になりません。
本当に必要なのは、家族全員の生活動線を俯瞰し、将来を見据えた設計を行うことです。

部分的な工事では解決できない「暮らしの不便」を取り除き、家族みんなが笑顔で過ごせる住まいを実現すること。
それが、私たち建築家が担う役割だと考えています。

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