ペットだって家族の一員――愛犬家や愛猫家の中には、そう考える人も多いことでしょう。そんな大切な「家族」と暮らすための住まい、いわゆる「ペット共生住宅」のあり方に、近年、注目が集まっています。今回は、豊富なアイデアと経験を持つ建築家が、理想のペット共生住宅について存分に語ります。
建築家・近藤剛さんが語る
ワンちゃんと暮らす家づくり「3つのポイント」
「犬は庭の犬小屋で飼うもの」といった考え方も今は昔。都市部の住宅などでは庭のスペースを確保することが難しいうえ、チワワやミニチュアダックスフント、トイプードルなどの小型犬が人気を集めたことも手伝い、大型犬・小型犬を問わず、屋内でペットと人が共生するというスタイルはあたりまえのものとなりました。そうなると、ぜひ知っておきたいのが、犬との暮らしに最適な家づくりのポイント。愛犬家住宅コーディネーターの資格も持つ、建築家の近藤剛さん(一級建築士事務所GO_AN)にお話を伺いました。
犬の足にやさしい床材を選ぶ
愛犬との生活を送る愛犬家の方に、まず考えていただきたいのが床の材質です。新築の木造住宅の場合、床材としてはフローリングが圧倒的な人気ですが、犬にとっては滑りやすいものが多く、元気に走り回る犬種の場合、足腰に負担が掛かり、股関節を痛めてしまうことがあります。本来であれば、柔らかくクッション性のある絨毯が理想ですが、汚れや匂いを気にされる愛犬家さんも多いのでその場合は傷や汚れに強いリノリウムやビニールクッションフロアの床を選ぶとよいでしょう。
また木の質感を得たいという場合は、比較的柔らかいスギの無垢フローリングを選ぶとよいですね。傷はとうしてもついてしまいますが、愛犬の体調を優先してそこは割り切り、スギの無垢材を選ぶ人も多くいらっしゃいます。また固く滑りやすいフローリングの場合には、表面に滑り止めのコーティング材を塗布するのも効果的だと思います。
犬のためのスペースをつくる
ペットや番犬として中大型犬が主流だった時代は、庭先の犬小屋が犬の居場所でしたが、家族の一員として室内で共生する場合は、家の中のどこかに愛犬専用のスペースをつくってあげることも重要です。市販のハウスもそのひとつですが、建築家と家を建てるなら、玄関の土間スペースを少し広げて、犬専用の土間「愛犬の間」をつくるのもよいでしょう。お散歩から帰ったときにすぐに足を洗えるし、ごはんを食べるスペースにもなります。その「愛犬の間」からリビングや庭へつながる動線を作ってあげれば、ワンちゃんは自由に行動出来ますね。玄関を広げるのが難しければ、リビングの一部に何かしら犬専用のスペースを設けてあげてもよいでしょう。あとは、デッドスペースになりがちな階段下を、扉付の犬専用の空間として設えてあげるという方法もあります。犬の寝床にもなり、来客時の隠れ場所にもなるはずです。
犬種や大きさによって必要な条件は異なる
大型犬と小型犬では、家づくりのポイントも異なります。たとえばゴールデンレトリーバーのような大型犬は脚力が強く、ツメも立派ですから、先述したようなフローリングでは耐えられない場合もあります。こうした大きなワンちゃんと暮らす場合は、汚れにも傷にも強いタイルを選ぶのがよいでしょう。タイルは床暖房との相性が良いので、夏は冷たいタイルの上で涼むことが出来、冬は床暖房が効いたタイルの上で温まることが出来て快適に過ごせます。また、大型犬の場合、室内だけでは遊び場が足りないこともあります。庭があればちょっとしたドッグランをつくったり、庭がなくても室内に回遊するような動線を用意してあげることで運動不足も解消できると思います。
また、犬は猫と違って高低差があまり得意ではありません。特に小型犬の場合は階段などの段差で怪我をすることもあります。そこで、階段の段板の間隔を小さくして上り下りしやすくしてあげたり、人間用の階段板の横に犬専用の階段(人間用の階段1段の間に2段をとる)を設けてあげたり、室内スロープを作ってあげると移動がスムーズになるでしょう。このように犬種や大きさなどによる犬の特性を理解した上で、愛犬家と犬が共に、安全・安心・快適に暮らすことのできる住空間をつくることが大切だと思います。
建築家によるペット共生住宅「愛犬編」
素材、動線、間取り・・・。お施主様からのご要望に対して、建築家がどのような答えを導き出したのか。「愛猫との共生住宅」4つのケースをピックアップしてご紹介いたします。
住宅密集地でありながら近隣との適度な距離感、配慮がなされた設計
そして愛犬仲間と時間を共有することができる中庭
お施主様の「ペット共生住宅」要望
- ・犬5匹と快適に過ごせることとメンテナンスが容易なこと。
- ・2世帯が適度な距離で住まえること。
- ・ワンちゃんを手軽に出せるルーフバルコニーがほしい。
ペット共生住宅についてのお考え、本作品事例で工夫した点
旗竿形状の敷地に計画した、2世帯が愛犬5匹と共に暮らすための住宅です。
犬の散歩仲間である知人に、設計者としてご紹介いただいた経緯もあり、犬の散歩仲間が集えるような中庭(通称:ドッグヤード)を介して建物にアプローチする構成としました。
このスペースは、世帯間を緩やかに繋げる緩衝スペースとしても機能しています。
住宅密集地であってもプライバシーをとりつつも1階の奧まで採光を導き通風を促します。
また、外部庭(ドッグヤード)が自身の建物によって囲われることで、近隣に鳴き声が伝わりにくことはとても気持ちが救われるとのお話しもいただきます。
内部は自然素材を主体とした臭いのこもらない吸臭性のある珪藻土を用い、腰高まではペットの爪による掻き傷に強い、耐摩耗性能を高めた壁紙を用いることで、メンテナンスの必要な面積を抑えられるように配慮しました。
箇所ごとに素材を変え、快適な共生住宅に
機能とデザインの双方が美しくまとめることを常に心がけています
お施主の「愛犬家住宅」要望
- ・ペットが高齢のため、お留守番をする際のトイレ事情に備え、床材はメンテナンスが楽で強いものを。
- ・ペット用のトイレもパブリックエリアに設けたい。
- ・明るく広いリビングダイニング。
- ・沢山の本を収納する為の本棚。
- ・お月見ができるような月見台がほしい。
ペット共生住宅についてのお考え、本作品事例で工夫した点
住まい全体としては、明るさを確保するために、吹抜を取り、庭にウッドデッキを設置することで、リビングの延長のような使い方ができ、実際の広さ以上の広がりを感じる事ができます。本はただ収納するのではなく、家族のライブラリーとしてのコーナーをつくり、お月見台は一番高い位置にセットしました。
ペット共生住宅として工夫した点ですが、ペット用のフローリングでも、目地から下地に水分が浸透することを懸念し、ダイニング部分の床にはテラコッタ模様の塩ビタイルを貼りました。またご要望のあったペット用のトイレについてですが、パブリックスペースに面しつつも主張しすぎないよう、物入れの下にビルトインしてすっきりとさせました。ここには防臭機能付きのクロスを貼り、天井部には単独の換気扇を設けています。
お留守番の際にペットがある程度のエリアで自由にできるように、腰高の格子戸を設置して、エリア分けをした動線をプランニングしています。
引渡し後、もともとマンション暮らしのワンちゃんでしたが、新しい住まいにすぐに慣れ、自分のスペースもしっかり把握し、元気に暮らしているようです。
ガラリ付きのドアより空気が流れ込み、
人もペットも快適に過ごせる住まいへのリフォームです。
お施主の「愛犬家住宅」要望
- ・人にもペットにも優しい自然素材で、手入れがかからず、傷にも強い床(フローリング)にしたい
- ・臭いがこもらないようにしたい
- ・旧住宅は段差が多かったため、人にもペットにも負担の無いように段差の解消と、土間や廊下などを無くしてできるだけ居住スペースを広げると共に、家族とペットが居心地の良いリビングがほしい。
- ・高齢になってきた愛犬のため、冬や夏でもすごしやすいように家の中で過ごせる犬小屋が欲しい
ペット共生住宅についてのお考え、本作品事例で工夫した点
ペット達と生活を楽しみ、共に良い環境の住まいであってほしい。
『お互いが快適空間』であるために重要なポイントは、ペットの習性をふまえて、お互いの心が通いやすい距離をふまえた空間、また安心・安全に暮らせ、長持ちする住まいを創ることです。
床には、愛犬と共に快適に過ごせるように、天然素材の風合いで、耐摩耗性・抗菌効果があり、静電気を帯びにくい性質のあるバンブー(竹無垢材)フローリングを採用。
愛犬のスペースは、落ち着ける事と、抜け毛などの衛生的な面を考え、建物の玄関に接するリビングの床下空間を利用。家族の気配を感じながら、適度な距離を保て、パートナーシップを深めます。
収納は可能な限り扉をつけて、いたずらや誤飲をふせいでいます。
以前の段差の多く底冷えのする住まいから、広く明るくなったリビングと、お気に入りの床下スペースでワンちゃんもご機嫌に過ごしています。