建築家・ナイトウタカシさんのブログ「「福祉用具業者任せ」の家づくりは。。」
「福祉用具業者任せ」の家づくりは。。
2025/11/05 更新
介護や車椅子での生活を支えるために、手すりやスロープ、昇降機などを設置する。
そんなとき、多くのご家庭がまず相談するのが「福祉用具業者」ではないでしょうか。
福祉用具の専門知識を持つ彼らは、道具や設備の提案に長けています。
しかし、そのまま「家づくり」まで任せてしまうと、後悔につながるケースが少なくありません。
なぜでしょうか?
1. 福祉用具の専門家=暮らしの設計者ではない
福祉用具業者は、個々の製品の使い方や安全性には詳しいプロフェッショナルです。
しかし、家全体の動線や空間構成を考える設計の専門家ではありません。
たとえば、手すりを付ける位置ひとつでも、
車椅子の回転半径
家族の通行ルート
ドアの開閉方向
といった条件を総合的に考えなければ、本当に使いやすい位置は決まりません。
それを「この壁なら取り付けできます」という判断だけで進めてしまうと、
設置後に「生活の動線が逆に使いづらくなった」ということが起こるのです。
2. 道具が先に決まると、家が道具に縛られる
スロープや昇降機などの設備を先に決めてしまうと、家の設計がそれに引きずられます。
その結果、「暮らしに合わせた家」ではなく、「道具を置くための家」になってしまうのです。
たとえば、昇降機を設置したことで廊下が狭くなったり、スロープの角度を優先した結果、玄関のデザインが歪になったり。
部分的には正しい判断でも、家全体の調和を失ってしまうことがあります。
3. 「今」しか見ていない設計になる
福祉用具業者の提案は、基本的に「現時点での状況」に合わせたものです。
しかし、暮らしは変化します。
お子さんが成長する、介助する家族の体力が変わる、生活の中心が変わる――。
これらを見越した設計を行わなければ、数年後には再び改修が必要になるでしょう。
建築家が関わることで、
将来の身体状況の変化
介助有無の違い
家族全員の動線
を踏まえた長期的な視点での家づくりが可能になります。
4. 家族の「暮らしの一体感」が失われる
福祉用具業者主導のリフォームは、どうしても「機能優先」になりがちです。
手すりやスロープが増えるたびに、家が少しずつ「病院のような雰囲気」になってしまうこともあります。
一方で建築家が入ると、
手すりをデザインの一部に取り込む
スロープをアプローチの一部として自然に見せる
といった工夫ができ、“福祉”と“デザイン”の調和が取れるのです。
家は「介護の場」ではなく、「家族の暮らしの場」。
その本質を守るには、デザインと機能を両立させる発想が欠かせません。
まとめ
福祉用具業者は、頼れる専門家です。
ただし、家づくりを任せる相手としては不十分です。
彼らが扱うのは「道具」、建築家が扱うのは「暮らしそのもの」。
大切なのは、どちらか一方ではなく、専門領域をつなぐ存在を持つこと。
建築家が福祉の知識を理解し、福祉用具業者と連携することで、安全・快適・美しさの三拍子が揃った家づくりが実現します。
ナイトウタカシ建築設計事務所では、福祉の現場と対話しながら、家族みんなが笑顔で過ごせる「生活設計としての建築」を提案しています。























