建築家・ナイトウタカシさんのブログ「アートは「好み」ではなく「記憶」から選ぶ」
アートは「好み」ではなく「記憶」から選ぶ
2025/12/22 更新
「どんなアートが好きですか?」
そう聞かれると、少し戸惑ってしまう方がいます。
好きかどうかを言葉にするのは、案外むずかしいものです。
けれど、「忘れられない風景はありますか?」と聞かれると、
多くの人は、少し間を置いてから、何かを思い出します。
アートを選ぶとき、実はこの“記憶”のほうが、ずっと確かな手がかりになります。
1. 好みは変わるが、記憶は残る
流行や好みは、時間とともに変わります。
若い頃に惹かれた色や形が、今は少し落ち着かないと感じることもあるでしょう。
一方で、
・初めて訪れた土地の空気
・夕暮れの光の色
・静かな朝の音
そうした記憶は、不思議と色褪せません。
アートを「好み」で選ぶと迷いやすいのは、
好みが今の自分の状態に左右されるから。
「記憶」から選ぶと、作品は暮らしの中で長く居場所を持ち続けます。
2. 心に残った情景を思い出してみる
アート選びの前に、こんな問いを自分に投げかけてみてください。
・なぜか忘れられない旅先の風景は?
・子どもの頃、好きだった場所は?
・気持ちが落ち着く“光”や“色”は?
それは必ずしも、はっきりした映像でなくても構いません。
「涼しかった」「静かだった」「少し切なかった」
そんな感情の記憶でも十分です。
抽象画や風景写真が、ふと心に引っかかるとき。
それは、その作品があなたの中の記憶と、どこかで共鳴している証拠かもしれません。
3. 記憶を飾ると、空間が落ち着く
記憶に基づいて選ばれたアートは、不思議と空間に馴染みます。
主張しすぎず、でも確かにそこにある。
それは「好きだから飾っている」というより、
「そこにあるのが自然」という感覚に近いものです。
来客に説明しなくてもいい。
評価されなくてもいい。
ただ、自分にとって居心地がいい。
住まいに必要なのは、そんな静かな納得感なのだと思います。
4. 記憶は、これからも増えていく
アートを記憶から選ぶということは、
過去を飾ることではありません。
これから出会う風景、これから生まれる時間も、
いずれまた、新しいアートの種になります。
一枚の絵が、人生のある時期をそっと記録し、
住まいの中で静かに呼吸し続ける。
それは、住まいが「暮らす場所」であると同時に、
人生の記憶を受け止める器になるということでもあります。
まとめ
アート選びに、明確な「正解」はありません。
けれど、「記憶から選ぶ」という視点を持つと、
迷いは少し減り、選択は静かになります。
好みではなく、心に残った風景から。
その一枚は、きっとあなたの住まいに、
無理のないかたちで居場所を見つけてくれるはずです。























