建築家・ナイトウタカシさんのブログ「設計者が「少し待ちましょう」と言うとき」

設計者が「少し待ちましょう」と言うとき

2026/01/27 更新

家づくりの打合せの場で、
ときどき私が口にする言葉があります。

「——少し、待ちましょう。」



提案を否定したいわけでも、
判断を先延ばしにしたいわけでもありません。



ただ、

「もう一度、今の気持ちを確かめた方がいい」
そう感じたときにだけ、
静かにそうお伝えすることがあります。







あるタイミングで出てくる

「これ、やっぱり追加したいです」
「こういうのも、取り入れられますか?」

という言葉。



それは

とても前向きで、
とても自然で、
とても大切な変化なのですが、



その裏側には、

「不安」や「焦り」や
「見えてきた理想との距離感」

が、同時に混ざっていることが少なくありません。





家づくりが進むにつれて、

図面は具体的になり、
暮らしのイメージも鮮明になり、



それと同時に、

「もっと良くしたい」
「せっかくなら後悔したくない」

という気持ちも、大きくなっていきます。



とても自然なことです。



むしろ、
真剣に向き合っている証拠だと思っています。





ただ、

その変化が

「本当に必要になったから」
出てきたものなのか、



それとも

「不安を埋めたいから」
出てきたものなのか、



そこだけは
ゆっくり見極めたいのです。



だから私は、ときどき

「少し待ちましょう」

とお伝えします。



それは、

止めるための言葉ではなく、

「いったん立ち止まって
 気持ちがどこを見ているのか
 もう一度、一緒に確かめましょう」

という意味に近いものです。





数日たって、

「やっぱり必要でした」

と戻ってくることもあれば、



「落ち着いて考えたら
 無理に入れなくてもいいと思いました」

と、静かに整理されることもあります。



どちらも、間違いではありません。



大切なのは、

「選んだ理由が、自分たちの中に残ること」。





家づくりは、スピードよりも、

“納得の深さ”の方が、
あとから効いてくると感じています。



だから私は、

決断そのものより、

決断にたどり着くまでの時間を
大切にしたいのです。





もし、

打合せの中で
私が「少し待ちましょう」と言ったら、



それは、

迷っているあなたを責めているわけでも、
踏みとどまらせたいわけでもなく、



「いま出てきた気持ちを
 もう少し大切に扱いましょう」



という、小さなサインとして
受け取っていただけたら嬉しいです。



その時間はきっと、
あとで静かに、効いてきます。

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