建築家・ナイトウタカシさんのブログ「「何を諦めればいいのか分かりません。」」
「何を諦めればいいのか分かりません。」
2026/09/02 更新
「何を諦めればいいのか分かりません。」
家づくりが進んでくると、こんなお話をいただくことがあります。
最初は、やりたいことを自由に考えていた。
でも、見積もりが出てくると、
予算とのバランスを考えなければならなくなる。
家の大きさにも限りがあります。
「全部は無理ですよね。」
「でも、どれを諦めたらいいのか分からなくて。」
そんなお気持ちになる方も少なくありません。
でも私は、そんなとき、
「では、優先順位をつけて削っていきましょう。」
とは、すぐにはお話ししないことが多いんです。
まずは、
「逆に、これだけは残したいと思うものはありますか?」
そんなふうに、お聞きすることがあります。
すると、
少し考えてから、
いろいろな答えが返ってきます。
「キッチンは気に入ったものにしたいです。」
「庭は小さくしたくないですね。」
「リビングの窓は残したいです。」
「私は、この場所だけは好きなんです。」
不思議なことに、
「何を諦めますか」と聞かれると迷ってしまうのに、
「何を残したいですか」と聞くと、
少しずつ言葉が出てくることがあります。
以前、ご相談いただいたご夫婦も、
見積もりを見ながら悩まれていました。
キッチンを変更する。
収納を小さくする。
窓を減らす。
いくつもの減額案が並んでいました。
そこで、
「この家の中で、一番楽しみにしている場所はどこですか?」
と、お聞きしてみました。
すると奥様が、
「ダイニングですね。」
とおっしゃいました。
大きな窓のそばにダイニングがあって、
庭を眺めながら家族で食事をする。
その時間を、ずっと楽しみにされていたそうです。
ご主人も、
「そこは変えたくないですね。」
と話してくださいました。
それが分かると、
少し考え方が変わりました。
すべてを同じように削るのではなく、
その場所はできるだけ残して、
ほかの部分を見直してみる。
すると、
「削る打ち合わせ」だったものが、
大切なものを残すための打ち合わせに変わっていきました。
もちろん、
予算に合わせるためには、
何かを見直さなければならないこともあります。
希望したものを、
すべてそのまま実現できるとは限りません。
でも、
最初から「何を諦めるか」だけを考えていると、
家づくりそのものが、
少し寂しいものになってしまうことがあります。
それよりも、
まず残したいものを見つけてみる。
そのうえで、
それ以外の部分に別の方法がないかを考えてみる。
そんな順番もあるように思います。
ですから、
「何を諦めればいいのか分かりません。」
と聞かれたとき、
私が一緒に考えたいのは、
諦めるもののリストではありません。
この家で、何だけは大切にしたいのか。
家族で過ごす場所なのかもしれません。
毎朝見る景色なのかもしれません。
料理をする時間なのかもしれません。
一人で静かに過ごせる小さな場所なのかもしれません。
そこが見えてくると、
「これは少し変えてもいいかもしれない。」
と思えるものも出てくることがあります。
家づくりでは、
すべてを叶えることが難しい場面もあります。
だからこそ、
何を諦めるかより、何を残したいのか。
私は、そこから一緒に考えていくことを大切にしています。























