建築家・ナイトウタカシさんのブログ「「玄関を開けてリビングが見えるのは」」
「玄関を開けてリビングが見えるのは」
2026/10/07 更新
「玄関を開けて、すぐリビングが見えるのは嫌なんです。」
間取りのお話をしていると、
こんなご希望をいただくことがあります。
宅配便の方が来たときに、
リビングまで見えてしまう。
来客があったとき、
散らかっているところを見られそう。
家族がソファでくつろいでいる姿まで、
玄関から見えてしまう。
だから、
玄関とリビングの間には、
何かあった方がいい。
そう考える方も多いと思います。
そんなとき私は、
「では、壁で見えなくしましょう。」
とは、すぐにはお答えしません。
まず、
「玄関を開けたとき、何が見えるのは嫌ですか?」
と、お聞きしてみます。
「リビングが見えるのが嫌」
といっても、
少しずつ理由が違います。
ソファにいる人を見られたくない。
テレビの周りが見えるのが嫌。
ダイニングテーブルの上が、
いつも片付いているとは限らない。
キッチンまで見えてしまうのは困る。
あるいは、
家の奥まで全部見通せてしまうこと自体が、
なんとなく落ち着かない。
その理由が分かってくると、
必ずしも、
玄関とリビングを完全に切り離さなくてもいいことがあります。
以前、ご相談いただいたご家族も、
「玄関からリビングが見えない間取りにしたいです。」
とおっしゃっていました。
そこで、
「何が見えることが一番気になりますか?」
とお聞きしました。
奥様は、
「家族がくつろいでいるところですね。」
と。
ご主人は、
「僕は、玄関を開けたときに壁しか見えないのも、ちょっと嫌かもしれません。」
とおっしゃいました。
そこで、
もう少し話をしてみました。
玄関から、
ソファは見えない。
ダイニングテーブルも、
直接は見えない。
でも、
家の奥に庭の緑が少し見える。
あるいは、
リビングの窓から入る光だけが、
玄関まで届いている。
そんな状態ならどうでしょう、と。
すると奥様が、
「それならいいですね。」
とおっしゃいました。
お二人が求めていたのは、
リビングを完全に隠すことではなく、
暮らしている姿は守りながら、家の奥の気配は感じられることだったんです。
玄関は、
少し不思議な場所です。
まだ外でもあるような。
もう家の中でもあるような。
そんな場所ですよね。
だから、
玄関から何が見えるかによって、
家に入ったときの感じ方も変わります。
正面に壁がある。
その先に廊下が続く。
庭が見える。
階段が見える。
家族のいる場所から、
明かりが漏れてくる。
どれも間取りとしては成立します。
でも、
そこで感じるものは違います。
例えば、
一日の仕事を終えて、
家へ帰ってくる。
玄関の扉を開ける。
そのとき、
家の奥に少し光が見える。
家族の声が聞こえる。
庭の木が見える。
それだけで、
「帰ってきたな」と感じる人もいます。
反対に、
玄関から生活のすべてが見えてしまうと、
外と家の境目が少し薄く感じられる人もいます。
だから私は、
玄関からの景色を考えるとき、
「何を隠すか」だけではなく、
「家に入った瞬間、何を感じたいか」
も、お聞きしてみたいと思っています。
もちろん、
玄関からリビングが見えることを、
まったく気にしないご家族もいます。
子どもが帰ってきたら、
すぐに顔が見える方がいい。
玄関とリビングが近い方が、
家族の気配を感じやすい。
そんな暮らし方もあります。
一方で、
来客と家族の場所は、
少し分けておきたいご家族もいます。
どちらが正しいということではありません。
大切なのは、
玄関と暮らしの場所との間に、どれくらいの距離が欲しいのか。
そこなのかもしれません。
ですから、
「玄関を開けて、すぐリビングが見えるのは嫌なんです。」
と聞いたとき、
私は、
「では、何が見えたら心地よさそうですか?」
とも、お聞きしてみます。
庭の緑なのか。
窓から入る光なのか。
お気に入りの絵なのか。
階段なのか。
あるいは、
何かがはっきり見えなくても、
家族の気配だけが伝わればいいのか。
「見せたくないもの」から考えるだけでは、
玄関は隠すための場所になってしまいます。
でも、
「帰ってきたときに見たいもの」まで考えてみると、
玄関は少し違って見えてきます。
見えないようにするだけではなく、何を見せるかを選ぶ。
玄関の扉を開けた瞬間は、
毎日ほんの数秒です。
それでも、
一日に一度は必ず、
外から自分の家へ戻ってくる場所です。
私は、リビングを隠すかどうかだけではなく、その扉を開けたときに「帰ってきた」と感じられるものは何なのか。そんなところから、そのご家族らしい玄関を一緒に考えていけたらと思っています。























