建築家・相川直子+佐藤勤さんのブログ「光を掬い、影を愛でる。五感で感じる「家」」
光を掬い、影を愛でる。五感で感じる「家」
2026/03/26 更新
◾️ 装飾を削ぎ落とした「器」としての壁
私たちの設計する住宅は、一見すると装飾が少なく、地味に見えるかもしれません。しかしそれは、住まう人の人生を彩る「背景」としての役割を追求した結果でもあります。駒込の家では、壁や天井の存在感を極限まで抑え、一方で建主の希望の素材を使いながらも空間を一つの清らかな「器」として仕立てることに注力しました。
多くの人が家づくりにおいて、特定の素材や目新しいデザインを求めがちですが、一時の斬新さは時として日常のノイズに変わります。私たちはあえて引き算を重ね、フラットで静かな面を作ることで、空間そのもののプロポーションを際立たせました。壁が主張を止めたとき、そこにはひとつの静寂が訪れます。
この「静かな壁」は、住まう人が持ち込む家具やアート、そして日々入れ替わる季節の草花を、最も美しく引き立てる舞台装置となります。マニフェストに掲げた「過剰な装飾ではなく、本質を目指す」姿勢。それは、建築が主役になりすぎるのではなく、住まう人の暮らしが主役になるための、建築家としての誠実な選択なのです。
◾️ 時間の移ろいを描く、光のグラデーション
壁をシンプルに整える最大の理由は、光を美しく掬(すく)い取るためです。駒込の家では、計算された窓の位置から差し込む自然光が、白い壁面に柔らかなグラデーションを描き出します。朝の透き通った光、午後の黄金色の斜光、そして夕暮れ時の淡い青。そして夏の、冬の……。
フラットな壁面は、こうした自然の微妙な移ろいを映し出す高感度なスクリーンのような役割を果たします。もし壁に強い個性や凹凸があれば、そこにノイズのような主張が発生します。装飾を削ぎ落としたからこそ、その壁はニュートラルになるのです。
これは、コミットメントにある「性能の数値だけではない心地よさ」の具現化でもあります。締切って空調を効かせるだけの快適さではなく、光の動きによって時間の経過を感じ、季節の気配を肌で知る。そんな、日本人の繊細な感性に沿う住まい。シンプルな壁に落ちる一筋の影にさえ、豊かさを見出すことができる。それこそが、私たちが提案したい「寿命の長い、息の長いデザイン」の正体です。
◾️ 日本的な「間」がもたらす心の静寂
私たちは、住宅の中に「間(ま)」を作ることを大切にしています。それは単なる空きスペースではなく、心のゆとりを生むための「余力」です。駒込の家では、部屋から部屋へ移り変わる瞬間の視線の抜けや、何気ないコーナーの余白に、この「間」を忍ばせています。
すべての場所を理詰めで機能的に埋めてしまうのではなく、あえてちょっとした「無駄」とも思える余白を残すこと。その余力が、不測の事態での解決の糸口になり、また日々の暮らしの中では、ふと立ち止まって思考を巡らせる場所になります。理詰めではない大らかさが、住まいに「心地よい緩さ」をもたらすのです。
フルオーダーの住まいづくりとは、こうした目に見えない「間」や「空気感」を、建主さんと共有しながら作り上げていくプロセスそのものです。手間と時間をかけて、一見バラバラに見えるご要望の奥底にある、本当に求めている「心地よさの源泉」を紐解き、形にする。駒込の家に流れる静謐な空気は、建主様と私たちの深い対話の結果として、そこに静かに佇んでいます。
◾️ まとめ
シンプルであることは、豊かさへの近道。光と影が織りなす「間」に、本物の心地よさが宿ります。























