建築家・相川直子+佐藤勤さんのブログ「足元から伝わる地元産の木材の記憶」

足元から伝わる地元産の木材の記憶

2026/06/01 更新

神奈川県産の杉材を贅沢に使用。足裏に触れる感触と、見上げた時の木目の安心感にこだわりました。

□ 神奈川県産杉でつくる「地元の空気」

鎌倉という土地で暮らすのなら、
その風土に最も馴染む素材を使いたい。
そんな想いから、この家の天井と一部の床には
「神奈川県産杉」を採用しました。

地元の山で育った木は、
その土地の湿度や気候を記憶しています。
地産地消の木を使うことは、輸送時の二酸化炭素排出を抑えるだけでなく、
住まいの空気を整え、地域の山を守ることにも繋がります。
地元への理解は、自分の住むエリアへの慈しみそのものです。

杉という木は、とても柔らかく、
空気をたくさん含んでいます。
見上げれば、整然と並ぶ木質の天井が
視覚的な温もりを与えてくれます。
その豊かな香りは、雨の日にはより深く漂い、
ふとした瞬間に森の中にいるような安らぎを運んでくれるはずです。

私たちは「新建材は吟味して使う」というマニフェストを掲げています。
適材適所、新建材を否定しているのではありません。
それは、こうした天然由来の素材が持つ
「五感に直接訴えかける力」を信じているからです。
数値上のスペックだけでは測れない、
「地元の空気」を纏った住まいの心地よさを大切にしました。

□ 広葉樹アッシュの強さと気品

一方で、家族が毎日歩き、
時には家具を引きずる床には、
力強い木目と硬さを持つ「アッシュ(タモ)材」を選びました。

針葉樹である杉が「柔」とするならば、
広葉樹のアッシュは「剛」。
そのはっきりとした木目は美しく、
和の趣を残しながらも、現代的な洗練された印象を与えます。

フローリングは家の中で最も肌に触れる面積が広い場所です。
冬でもヒヤッとせず、夏はさらりと裸足が心地よい。
無垢材ならではの調湿効果は、
湿気が気になる鎌倉の暮らしにおいて、
目に見えない最高の「設備」となって機能します。

私たちは、一軒の家の中で
すべての素材を同じにする必要はないと考えています。
適材適所。
天井には柔らかな杉、床には強靭なアッシュ。
異なる個性の木々を組み合わせることで、
空間に心地よいリズムと、飽きのこない表情が生まれるのです。


□ 経年変化を愉しむ、育てる住まい

「一時の斬新さや目新しさは、すぐに古びてしまいます」
私たちのマニフェストにあるこの言葉は、
素材選びにおいて最も重要な指針です。

無垢の木材は、完成した瞬間がゴールではありません。
5年後、10年後、15年後……。
光を浴び、人が触れることで、
杉は深い飴色に変わり、アッシュはより落ち着いた艶を纏います。

傷がつくこともあるでしょう。
しかし、それは家族がそこで過ごした時間の「重なり」です。
古びてみすぼらしくなる「劣化」ではなく、
味わい深く育っていく「経年変化」。
その変化を愛せることこそが、
フルオーダーの家づくりで得られる最大の贅沢かもしれません。

私たちは、いつか役目を終えたとき、
できる限り自然に還っていける材料であることを望んでいます。
神奈川の山から届いた木が、
皆さんの人生を彩り、やがて風景の一部となっていく。
そんな寿命の長いデザインを、これからも丁寧に形にしていきます。

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