建築家・相川直子+佐藤勤さんのブログ「素材が支える、健やかな暮らし」
素材が支える、健やかな暮らし
2026/06/24 更新
□ 機能する壁、エッグウォールパルプ
鎌倉の家の壁に採用したのは、「エッグウォールパルプ」という素材です。
その名の通り、マヨネーズ工場などで排出される卵の殻を再利用して作られた、
機能性壁紙(紙クロス)の一種です。
海が近く、湿気がこもりやすい鎌倉という土地において、
壁が自ら湿度を調整してくれるメリットは計り知れません。
湿気が多ければ吸い込み、乾燥すれば吐き出す。
さらに、卵の殻の多孔質成分が、生活臭などの「におい」も吸着してくれます。
私たちはマニフェストにおいて、
「住まいは光や風といった自然の流れの中において五感で感じるもの」
と定義しています。
機械に頼り切るのではなく、素材そのものが持つ自律的な機能によって
清らかな空気を保つ。
それこそが、私たちが考える「健やかな住まい」のあり方です。
□ 手仕事の温もりを、パルプの質感に
建築家が素材を選ぶとき、機能性と同じくらい大切にするのが「光の反射」です。
一般的なビニールクロスは、光を均一に、時には強く跳ね返してしまいます。
しかし、エッグウォールパルプは、その微細な凹凸によって光を乱反射させ、
空間全体を包み込むような「柔らかな白」を作り出します。
簡単にいうと、ごくごく自然な感じなのです。
鎌倉の家の大きな窓から差し込む初夏の強い光も、
この壁に触れることで、角が取れた穏やかな表情へと変わります。
第2回でご紹介した「神奈川県産杉」の天井や「アッシュ」の床。
これらの力強い木材の個性を優しく受け止め、
調和させてくれるのが、このパルプの質感なのです。
一見すると、派手さのない地味な白壁に見えるかもしれません。
しかし、朝、昼、夕。
移ろう太陽の光を敏感に映し出すその表情は、
住む人の心象風景に深く刻まれる豊かな背景となります。
「いたずらに斬新で刺激的な住まいを目指すのではない」
私たちの設計哲学は、こうした「静かな質感」の積み重ねによって形作られています。
□ 環境負荷を抑え、自然へ還る選択
私たちは材料を選ぶ際、その「出自」と「行方」を常に問いかけています。
エッグウォールパルプは、本来捨てられるはずの卵の殻を再利用した、
環境負荷の低いリサイクル素材です。
マニフェストにある通り、
「その材料が破棄されることになった時にも、できる限り自然に帰っていけること」
は、私たちが大切にしている約束事の一つです。
化石燃料由来の新建材を安易に多用するのではなく、
天然由来の成分を主とした、命の循環の中にある素材を選びたい。
これは単なるエコロジーの推奨ではなく、
「自分の家が何で作られているか」という納得感が、
住まいへの深い愛着に繋がると考えているからです。
家を建てるという行為は、大きな責任を伴います。
だからこそ、素材の選択一つひとつに、明確な理由と物語を持たせたい。
「卵の殻が守る家」という少し意外な選択肢が、
不測の事態にも大らかに応えてくれる住まいの「余力」に繋がると信じています。























