時代に新風を吹き込む建築家たち

2014.7.11

数寄者、ここにあり

堀紳一朗(忘蹄庵建築設計室)

茶室と聞いて嫌な予感がした。「茶と日本文化」みたいな話になったら? 家づくりの話になるだろうか? と。しかし、心配は不要だった。茶室に代表される「空間づくりのテクニック」は、どんな住宅にも使えるし、決して敷居の高いものではない、という。こちらの緊張を解くゆったりした語り。そう、この人は「数寄者」なのだ。

インタビュー、構成:建築家O-uccino編集部

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――「和風」が特徴とうかがいました。

そもそも建築の道に進んだのは、「大工さんになりたい」といった子どもの夢の延長だったんです。それで建築学科に入って、国内外のいろいろな建物を勉強しているうちに、やはり、日本人にとっていちばん居心地がいいのは「和の空間」だな、と。それから日本建築を深く勉強するようになりました。卒業してからも寺社や茶室、住宅などを手がける工務店で修行して、さらに「和の要素」を学んだという感じですね。

――「和の要素」とは具体的にはどんなことですか?

簡単に言えば「家づくりに、数寄屋建築の技法を使う」ということです。数寄屋というと、茶室みたいな家を建てるのか?と思われるかもしれませんが、そうではありません。数寄屋から学んだ手法――素材選び、寸法のバランス、庭と屋内との関係性、格調など雰囲気の設定、光の取り入れ方など――を使って、日本人にとっていちばん落ち着く空間をつくろう、ということです。
数寄屋の技術を使っているからといって外観も伝統的な日本家屋になるとは限りませんし、畳の和室じゃなくても「和の要素」によって日本的な親しみ深い空間はつくることができるわけです。

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――数寄屋のノウハウを現代に活かす、と。

奇をてらってはいけないが、意外性はいる。なおかつ居心地がいい。そんな空間を無理のないようにゼロから考えるのは、非常に難しいんです。だから数寄屋建築では、古い建物からアイデアをもらったり、俳句の「本歌取り」のように一部のデザインをマネしたりします。そういう「引用の文化」も日本建築の特徴なんです。お施主さんがそういうところを「おもしろい」と言ってくれるのが励みになっています。

――昔の知恵が、現代でも役に立つんですね。

数寄屋は茶道がルーツです。客をもてなし、心を通わせる茶室の空間とは、「心くばり」そのものといえます。すみずみまで心くばりの行き届いた空間を作ることで、長く楽しめ、意外性もある家を実現できるのです。

堀紳一朗(忘蹄庵建築設計室)

photo 1972年生まれ。
1995年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。近代数寄屋の形成に寄与し、高級住宅、社寺、茶室、料亭などを施工する株式会社水澤工務店に現場監督として勤務。住宅、社寺、店舗などの建設現場に常駐し、管理業務に携わる。
2007年に忘蹄庵建築設計室を設立。知識や技術力を持つ施工者と共に上級の建物を作り出すことを大切にする一方で、現場経験を生かし十分な施工図面の作成と現場監理をすることで、熱意のある工務店や職人とともに価格を抑えてよりよい建築を建てる試みを行う。

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