建築家インタビュー 建築家の間取りから

記憶を継承するリノベーション~素材が息づく家~

限られたスペースを広く見せるための工夫や、光や風を存分に取り入れる仕組み、住まい手の生活スタイルにしっくりとなじむ動線計画──建築家が手がける「間取り」には、住宅メーカーや工務店にはない独自のアイデアが詰まっています。本シリーズでは、そんな建築家の間取りと設計手法を徹底解剖。心地よく魅力的な間取りはどのように生まれるのか?に迫ります。第10回は、数々の工夫を凝らし、新築にはない魅力を生み出した戸建住宅のリノベーション事例「O邸」(K+Yアトリエ一級建築士事務所)です。

Architect

K+Yアトリエ一級建築士事務所

竹内国美さん・竹内由美子さん

竹内国美1996年 関東学院大学工学部二部建設工学科卒
1995~1996年 OM研究所所属(アルバイト)
1997?2000年  丸谷博男+エーアンドエー・セントラル所属

竹内由美子1991年 昭和女子大学生活美学科住居コース卒
1991~1995年 ホームイング株式会社所属
2000年  K+Yアトリエ一級建築士事務所設立

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―お二人は新築だけでなくリノベーションも得意とされています。建て主さんからの需要も増えているようですが、リノベーションのメリットはどのようなところにあるのでしょうか?

同じリノベーションでも、新たに購入した中古物件をリノベーションする場合と、元々住んでいた家をリノベーションする場合とでは、設計のプロセスやアプローチの方法が大きく異なります。
前者の場合、新築だと手の届かない物件でも、中古+リノベーションなら現実的な選択肢になり得る、という点がメリットですよね。新築物件にありがちな画一的な内装に満足できないという方にもよいでしょう。ただしこの場合、新しいものを生み出すという面白さはありますが、建て主さんも私たちも、まっさらな状態から計画がスタートすることになります。
一方後者の場合、長年住んできた建て主さんは、その家のもつクセや弱点はもちろん、その家の長所について熟知しています。そこに我々建築家の新しいアイデアをミックスさせることで、どこを残し、活かして、どこを新しくつくりかえればよいのか、そのイメージの共有がしやすくなる。建て主さんと我々建築家のコラボレーションがより密度の濃いものになるというメリットがあると言えるでしょう。

―「O邸」は、建て主さんが元々住まわれていた、築35年の戸建住宅をリノベーションした事例だそうですね。建て主さんからはどのような要望があったのでしょうか。

O邸の建て主さんには3人の息子さんがおり、リノベーション前は3人全員が2階のスペースで過ごされていました。洗濯室やキッチンなどの水まわりはすべて1階にあったため、家事動線としては不便で、奥様の手が回らなくなっていました。また、お子さんたちの成長に伴い、それぞれに自立した生活を促したいとお考えになっていたようです。
そこで当初、建て主さんは、1階の続き間になっている大きな和室スペースを3つの個室につくり変え、そこをお子さんたちのスペースにする、というプランを希望されました。

―ですが、間取り図を拝見する限り、続き間の和室は大きなLDKとなっています。

建て主さんからのこの要望はとても興味深いものでしたが、我々プロの建築家は、客観的に状況を見つめた上で計画を進めていく必要があります。建て主さんからの要望はもちろん最大限尊重しますが、それが最適な答えではないこともあるからです。
今回、建築家の視点から見て特に重要だと感じたのは、続き間の和室がこの家の「特等席」であったという点です。採光条件のよい南向きの大きなスペースを個室として細かく区切ってしまっては、もったいない。ゆくゆくはお子さんたちが独立することも考え、個室の集まりではなく、大きなLDKとすることを提案したところ、快く了解してくださいました。
LDKは以前縁側があった部分までスペースを広げ、開放的な空間になっています。新たに耐力壁も設け、耐震性も向上させました。

―O邸にはところどころ、リノベーション前の古い建具が使われていますね。

たとえばLDK南面の大きな窓には、もともと和室で使われていた雪見障子を既存のサッシにひと工夫してそのまま利用しています。またLDKと廊下をつなぐ部分には建て主さんお気に入りの既存の框戸を再利用しています。新築にはない味わいがありますよね。ほかにも、LDKとホールの間には、以前仏壇に使われていた4枚引き戸を縦に並べて、スリットを設けました。これらは、空間のアクセントとしてはもちろんですが、この家とそこに暮らす家族との物語、記憶を継承するための装置なのです。
どんな家にも、共に過ごした家族との歴史があり、その家族だけの物語があります。すべてを新しいものに取り替えるのではなく、残すべきものは残して、その記憶を継承する。それが、私たち建築家のリノベーションです。そうして生まれ変わった家には、新築にはない魅力があると私たちは考えています。

―お二人は素材使いにもたいへん力を入れていらっしゃると伺いました。リノベーションでは、どのような素材使いを心がけておられるのでしょう?

ひとつは、「自然素材」をどこでどう使うか、という点です。例えばマンションの場合、どちらかといえば無機質な印象ですよね。ところが、リノベーションで木などの自然素材を内部空間にうまく使えば、そこに意外性が生まれ、魅力的な空間を演出できます。
もちろん建築に使われる素材は木だけではなく、金属や石、ガラス等、他にもたくさんありますよね。時には合成樹脂系の素材を選ぶこともあります。大切なのはそれぞれの「素材感」ができるだけ素直に感じられる使い方をすることだと考えています。
もうひとつは配置のバランスです。たとえば「祐天寺E邸」のマンションリノベーションでは、カラフルな塗装や、特徴のある格子の建具を用いています。どちらもE邸の建て主さんからご提案いただいたものですが、こうした個性的な素材をどこに、どのくらい使うかがとても重要なのです。カラフルな色なら、個室全体に使うのではなく、動線を考えてアイストップとなる場所にさりげなく配置した方が効果的な場合もあります。格子の建具も同様です。こうしたコーディネートができることは、建築家とリノベーションをすることの大きなメリットとなるはずです。

パート・ド・ヴェベール

壁に設えたパート・ド・ヴェベール。廊下のアイストップと、採光確保の役割を果たす。(H邸)

ビフォア写真

O邸の続き間の和室。南に面するこの家の特等席は開放的なLDKとして生まれ変わる

カラフル塗装

E邸には建て主さんの要望でカラフルな塗装を。淡いグリーンの壁を切り抜くように開口が開き、その先にはパープルの壁がアイストップにる

E邸の格子建具

E邸の格子建具の四隅には小さなダボ穴が。冬場は寒気の流入を止めるため、ポリカーボネートの透明な板を取り付ける

個性的な柄のクロス

個性的な柄のクロスは洗面室の1面に張ってアクセントに。建て主さんからの提案が、思わぬ発見につながる

編集後記

K+Yアトリエ一級建築士事務所を訪れて

「設計は建て主さんとのセッション。特にリノベーション案件は新築とはまたひと味ちがった密度の濃いやりとりがあるのです」。そう楽しそうにおっしゃる竹内国美・由美子さん。息の合ったコンビネーションで、私たちの質問にも熱心に、かつ的確に答えてくださいました。お客様との打ち合わせでも同じようにご夫婦で対応されるというお2人。建築家として共通のセンスを持つ2人から、男性目線と女性目線の両方でアドバイスがもらえるのは、依頼する側にとっては心強い限り。実際、その点に魅力を感じてこられるお客さんも多いというのも実際にお会いして納得できます。

編集後記

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